こんにちは!脳神経外科医の山本俊です。
帰国に大変苦労しましたが、アメリカ頭痛学会で頭痛の最先端を勉強してきました。
本記事では、「片頭痛の治療」の2026年5月までの最新情報を、全て出します。
※なお私は製薬会社さんからの援助はありません。
Migraine = 片頭痛
痛みを知っている私にとっては、「Migraine」、痛そうな響きだと感じます。
片頭痛の人でも半分くらいは頭の両方が痛くなると以前お話ししました。
まず、自分が片頭痛なのかどうか大まかに知りたいという方は、以下の記事で詳細に解説していますので、ぜひお読みください。
Migraine Freedomとは?
Migraine Freedomという言葉が、頭痛を専門とする医師の間でも盛んに言われるようになりました。
これは、片頭痛からすっかり解放されることを意味します。
最新の見解では、
・Optimal control (月あたりの片頭痛を4日未満にしよう)
・Migraine Freedom (片頭痛が全くない月をつくろう)
というゴールを掲げて、世界で同じ目標を共有することが国際的に啓発されています。(参考文献1)
以前は、頭痛が半分になれば十分だよね、というレベルの目標でした。そのくらい、頭痛の治療は難しかったのです。
しかし、1ヶ月28日間もひどい頭痛がある方が、14日になってそれでおしまいなのでしょうか?
そうではありません。毎日の頭痛の方ですら、Migraine freedomを目指せる。
そのくらいお薬が進化してきたからこそ、このようなことが言われる時代になったのです。
私の患者さんでも、Migraine Freedomを達成した方が多くいらっしゃいます。
その方はこう言いました。
あれだけひどかった頭痛がなくなって、「なんだったんだろうって感じです。」
もう頭痛のことを忘れてしまうんです。痛みを忘れるというのは、脳にとっても非常に良いことです。
頭痛がなくなり、人生が変わる。
このような経験をされる片頭痛の方は、幸せなのではないかとまで思えるほどです。
まず片頭痛の方へ。
「片頭痛専用のお薬がある。」これご存知ですか?
悲しいことに、ほとんどの人が知りません。だいたいの方は、「ただの片頭痛には市販の痛み止めを飲むこと」が当たり前になっています。
しかし、そういう方は間違いなく損しています。
これは基本ですから、まずはこちらの記事で、その触りだけでもぜひ知ってください。
ではここから本題に入ります。
頭痛医学の重要概念:「頭痛を予防する」とは?
まず頭痛医学の重要な考えをお教えします。
頭痛を”予防する”という考え方を知ってください。
頭痛がきたから痛み止めを飲む。これは当たり前ですが、実は頭痛治療の半分にすぎません。
頭痛の時のお薬を、これは頭痛医学としては「急性期薬」といい、そういったときにお薬を飲むことは「急性期薬治療」といいます。
頭痛専用のトリプタンなどのお薬も、すべて「急性期治療」にあたります。
ではもう半分の「予防治療」とは何でしょう?
これは、頭痛の頻度を減らす、さらにはそもそも来ないようにすることです。
「そもそも来ないようにできるの…?」
わかってきましたね。
Migraine freedomとは、頭痛を完璧に予防することで、そもそも頭痛が来ない状態を達成したことなのです。
それでは、日本での頭痛医学がどのように歩んできたのかから、最新治療にいたるまで解説します。
日本の頭痛治療の変遷
1 トリプタンの登場(2000年〜)
これの登場以前は、エルゴタミンなどの治療薬が主流でしたが、「片頭痛専用のお薬」として登場したのが、「トリプタン」です。
片頭痛では、ずきんずきんと痛みが起こることが多いです。
これはなぜか。
脳の表面の血管が、広がって、心臓の拍動と一緒に、ずきんずきん、ドクンドクンと痛くなるからです。
トリプタンは、この拡張した血管を縮小させることにより、効果を発揮します。
市販の痛み止め=痛み全般に効く(対症療法)
トリプタン=片頭痛の時の血管に効く(原因療法)
非医療者の方にあえて分かりやすく説明しています。
普通の痛み止めは片頭痛にあまり効きません。対症療法にすぎないからです。
重要なのは、片頭痛の仕組みそのものに作用する原因療法です。
💡専門医師からのポイント
トリプタンは日本で5種類存在します。最初に処方したものが合わずに、患者さんの声を良く聞いて、変えることはよくあります。きちんとトリプタンを選ぶことにより9割の方で満足が得られるとも言われています (参考文献2)。
2 頭痛の「予防薬」の登場(2011年〜)
頭痛治療に重要な「予防」という概念が提唱され、導入されました。
しかし、頭痛専用に作られた「頭痛予防薬」はありませんでした。
それでも、内服すると十分に効果を発揮し、「寝込む頭痛がなくなった」などの声がちゃんと聞かれます。
しかし、なかなか副作用や長期服用の懸念から、続かない人が多いのも実情でした。
💡医療者向けの専門医師からのポイント
日本で使用可能な従来の片頭痛予防薬は
「バルプロ酸(抗てんかん薬)」「アミトリプチリン(三環系抗うつ薬)」「プロプラノロール(β遮断薬)」「ロメリジン(Ca拮抗薬)」です。
3 重要物質「CGRP」の発見
ここで、片頭痛の治療に革命をもたらす物質が発見されました。
CGRP: Calcitonin Gene-Related Peptide(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)と言います。
これが、トリプタン以上に、片頭痛の原因に作用することがわかりました。
先ほど、片頭痛では血管広がって頭痛がすると言いました。
CGRPは、神経から分泌され、「血管を広げる原因」となる物質です。
これをブロックすると、そもそも血管が広がって頭痛になる前に消えていく。
このようにして、頭痛が来なくなることが可能になるわけです。
この「CGRPをブロックする治療」というのが、片頭痛の新たな時代の幕開けとなりました。
4 CGRPを注射でブロック(2021年〜)
片頭痛の診療に革命がやってきました。
CGRPを1ヶ月に1回注射でブロックするお薬が登場しました。
最も驚くべきは、この注射で頭痛がなくなる人「Perfect responder」がいたことです。
このお薬をきっかけに、片頭痛診療が大きく変化し、注目を集めるようになりました。
お薬の種類は3つ。
「エムガルティ」「アジョビ」「アイモビーグ」
です。
細かい使い分けや、どれがどういう方に適するか。これらは今後の記事で説明します。
5 CGRPを内服薬でブロック(2025年〜)
「注射」と聞いて、抵抗感がある人も、正直いたかもしれません。
大丈夫です。CGRPをブロックする、飲み薬が登場しました。
「ゲパント」というカテゴリのお薬です。
日本では、
「ナルティーク」は、2025年12月に発売。
「アクイプタ」は、2026年5月に発売。まさに最先端です。
これらは最先端のお薬なので、私も現在、積極的に患者さんに使って効果を確かめています。
💡専門医師からのポイント
副作用って、大丈夫なんでしょうか…?よくこのような声が聞かれます。
大丈夫です!このCGRPをブロックするお薬は全て、トリプタンや、これまでの予防薬よりも、副作用が起こりにくいことが分かっています。
重要なまとめ
CGRPという物質をブロックすることにより、画期的に片頭痛がよくなる時代が到来しています。しかし、多くの人は、新しい治療はおろか、「片頭痛用のお薬がある」ということすら知りません。
自分が片頭痛なのかどうか私の記事で見分けて、ぜひ頭痛専門の医師を受診して、診断を受けて最新の治療を検討してみてください。
人生の変わるMigraine Freedomが得られるかもしれません。
それでは次回予告。
「飲みすぎてない?」薬局の痛み止めに入っている「ヤバい成分」
それでは、お楽しみに〜!
参考文献1
Russo A, Reuter U. Raising the bar in migraine prevention: Toward freedom and optimal control. Cephalalgia. 2025;45(5):3331024251331198.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40384616/
参考文献2
竹島多賀夫 編『ジェネラリストのための頭痛診療マスター』日本医事新報社, 2022)








山本俊先生、いつもSubstackで関わっていただきありがとうございます。片頭痛についてはほんとに悩まされている方が多いですよね。そしてそこまで重大な症状ではないと勝手に判断し治療や予防をおろそかにしているように思います。今回の記事で僕が特に驚いたのは片頭痛を予防できるというとです。慢性的な頭痛や肩こりや腰痛が放置される現代、こういった製薬会社と癒着のない誠実な先生の情報発信は役に立ちますね。これからも情報発信楽しみにしております。またこれからもSubstackで交流していただければ幸いです😊
治療のゴールが「頭痛の半減」ではなく、完全にゼロを目指す「Migraine Freedom」の時代へシフトしているというお話に、非常に大きな希望を感じます。
1ヶ月の大半をひどい頭痛で寝込んでいたような方でも、CGRPをブロックする最新治療によって「頭痛のことを忘れる人生」を取り戻せる。そんな医療の進化の凄みと、単なる対症療法ではない「原因療法(予防)」へと踏み込むことの重要性が真っ直ぐに伝わってきます。