こんにちは。
本日は、私が頭痛診療を行うきっかけになったと言っても過言ではない、ある患者さんとの出会いについてお話しします。
※本記事は一部情報を変え、かつ本人の同意も得てお話しています。
「脳神経外科」をかかることはとても勇気が要りました。
これが患者さんの生の声でした。
患者さんは重度のうつ病を併発した最重症の頭痛の患者さんでした。
何度も医療機関をかかり、検査をしては異常がないと言われ、がっかりすることを繰り返すうち、頭痛は当たり前に付き合っていくものだ、と諦めてしまっていたそうです。
毎日、何錠も頭痛薬を飲むことを繰り返す毎日。うつ病を併発して精神科にかかって、薬の量が増えていく日々。
頭痛だけでも何とかしたい、そう配偶者の方と相談して勇気を出し、まだ頭痛外来も標榜していない「脳神経外科」を受診した。それが私との出会いでした。
「眩しさ」と「天気の悪さ」で頭痛があまりに悪化するから外出もできない。
これを特にその方は訴えていました。
その時脳神経外科専門医ではあるものの、まだ頭痛診療を本格的に始めていなかった私は、「片頭痛」の診断がつくかもしれないと感じとりました。
片頭痛なら、非常に治療が進歩しているから、藁にすがる思いで来てくれたこの人に光が差すかもしれない。
そう直感しました。
CGRPという片頭痛の原因物質をブロックする注射、それを初めて、試してみたいと思いました。
CGRPという重要物質については以下でも解説しています!
劇的に頭痛が良くなった。うつ病も改善傾向を示した。取り戻した、失われた人生の時間。
患者さんの笑顔をきっかけに頭痛診療に目覚めた。
こんなによくなる治療があるのか。
私は脳外科医なので手術を生業とする医師ですが、手術で患者さんを劇的によくできることは、実は多くありません。
しかし頭痛診療は、苦しんできた患者さんの人生に向き合い、劇的に良くすることができる。ここに大きな意義を見出しました。
また、この患者さんには3種類のうち「アジョビ」を使いました。
なぜなら今、アジョビのみが不安やうつの改善効果が示されているからです。
💡専門医師からのポイント
3種類あるCGRP関連抗体薬の中で、「アジョビ」は頭痛と一緒にうつの改善も示されている。
(参考文献1)
出てしまった「軽い」副作用、それでも患者さんにとっては怖かった。
CGRP関連抗体薬は、基本的に副作用はほぼ起きません。
起きても、注射した後の赤みやかゆみが、そして一部のCGRP薬(アイモビーグ)では便秘が起こります。
💡専門医師からのポイント
CGRP関連薬は、その高い効果に対して副作用はほとんど起こさない。起こっても対応可能な場合がほとんど。
注射部位反応 5%程度 便秘 2-3%(アイモビーグのみ)
(参考文献2)
その患者さんには注射部位の赤みと痒みが出ました。これは注射部位反応と呼ばれるもので、軽症なら軟膏の塗布で対応できます。
私には軽症に思えました。
しかし、うつも併発した患者さんにとっては、とても不安だったのです。
これはアレルギー反応? もう一度注射して大丈夫? アナフィラキシーなんておこさないか? 注射をやめてまた元通りの頭痛になってしまうのか?
不安をしっかり受け止めて、私は丁寧に説明しました。
このような現象は知られていて、軽症なので軟膏で対応できることがほとんどです。
こんなに効果があるので、続けてみませんか?
そして、私を信じて続けてくれた。
今も患者さんは治療を継続しています。
痛み止めの飲み過ぎの状態が20年以上続いていたため、なかなか頭痛がなくなるところまではいきません。しかし、頭痛がない日があるだけでも素晴らしいのです。
人生がかわった瞬間、人がどんな笑顔になるか想像できますか?
たしかに手術ではない、麻痺やしびれがよくなるわけではない
しかし
失われた生活の質をとり戻す
それがどれだけ意義があることかを知ったのです。
私の頭痛診療への目覚めでした。
そしてこの治療は、ぜんぜん浸透していません。
多くの人が、いつもの頭痛、と片頭痛を市販の痛み止めで抱え込んで、知らず知らずのうちに悪化させています。
今月は、このCGRP関連抗体薬の使い分けについて深掘りしていきます!
それでは次回予告。
「CGRPって何?」最新治療CGRP抗体薬の使い分けと専門医師が語るリアル
それでは、お楽しみに〜!
参考文献1
UNITE試験
現時点で最も質の高いエビデンスです。
対象:片頭痛+DSM-5で診断された大うつ病性障害
353例、二重盲検プラセボ対照RCT
フレマネズマブ225 mg/月とプラセボを比較
64%は一定用量の抗うつ薬を併用
8週時点のHAM-D17変化量は、
フレマネズマブ:−6.0点
プラセボ:−4.6点
群間差:−1.4点(95%CI −2.61~−0.22、p=0.02)
したがって、抑うつ症状はプラセボより有意に改善しました。
「精神疾患と診断された集団で、抑うつ症状の改善をプラセボ対照で示した」という点で重要です。Lipton et al., JAMA Neurology, 2025
参考文献2
Evaluation of injection-site-related adverse events with galcanezumab: a post hoc analysis of phase 3 studies. BMC Neurology
Ashina M, et al. Long-term tolerability and nonvascular safety of erenumab: a pooled analysis of four placebo-controlled trials. Cephalalgia







単に痛みを抑えるだけでなく、CGRP抗体薬によってうつの改善や生活の質そのものを取り戻せたという実例に深く納得しました。脳外科の手術とはまた異なる形で、患者さんの失われた人生の時間を救い出す頭痛診療の持つ意義の大きさを感じます。